結論
補助金は 同一経費の重複受給は原則禁止です(2026年9月時点)。経費が分かれていれば併用できる場合もありますが、経費が違うだけで必ず併用できるわけではありません。
公式資料で確認できる制限の例:
- 省力化投資補助金: 国の他の補助金と補助対象経費が重複するものは対象外。カタログ注文型は、経費が重ならなくても、テーマや事業内容がIT導入補助金と同一・類似なら対象外
- 業務改善助成金: 同じ設備投資等の費用に国・自治体から補助金等を受けている場合は対象外(交付要綱 第4条第4項第一号エ)。公益財団法人等の助成とも併せて受けられない(Q&A 問48)
- 雇用関係助成金どうし: 同じ行為・同じ経費や賃金の支出について、2つ以上を同時に受けることはできない(雇用関係助成金 共通要領0304)
各制度の公募要領で「他の補助金との重複」の項目を必ず確認してください。重複受給は 補助金返還命令 の対象になる重大違反です。
1. 重複受給禁止の基本ルール
同一経費に対する重複受給は厳禁
例: 店舗の設備費60万円
- 持続化補助金で申請 → 採択
- 同じ設備費を別の補助金でも申請 → 採択
- → 重複受給。交付決定の取消・返還命令の対象
「同じ領収書で2つの補助金から振込を受ける」のは絶対NG。
経費が分かれていても、同じ事業なら対象外になることがある
経費を分けても、テーマや事業内容が同じだと対象外とする制度があります。省力化投資補助金のカタログ注文型は、補助対象経費が重ならなくても、テーマや事業内容がIT導入補助金(現・デジタル化・AI導入補助金)と同一・類似なら対象外としています。
別の補助金を使うときは、事業計画書に記載される「事業」が別のものとして説明できるかを先に確かめてください。
2. 根拠法令 — 重複受給を禁止しているのは何か
「重複受給を禁止する法律の条文はどれか」という質問が多いのですが、先に結論を書きます。
「補助金の重複受給を禁止する」と一文で書いた条文はありません。 国の補助金では、次の組み立てで禁止が成り立っています(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律=補助金適正化法)。
① 実際の禁止規定は「公募要領・交付規程」にある
適正化法第7条は、各省各庁の長が交付決定にあたって「補助事業等に要する経費の使用方法に関する事項」等の条件を付すと定めています(1項2号)。各制度の公募要領・交付規程が、この「条件」として補助対象経費の定義を置き、そこで「他の補助金等の交付を受けている経費は補助対象外」と書いています。
つまり根拠を確認したいときに読むべきは、法律の条文ではなく、申請する制度の公募要領の「補助対象経費」の項です。制度によって、同一経費を除けば併用可としているもの、事業単位で排他としているものなど、書き方が異なります。
② その条件に従う義務が第11条
補助事業者等は、法令の定並びに補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件……に従い、善良な管理者の注意をもつて補助事業等を行わなければならず、いやしくも補助金等の他の用途への使用をしてはならない。(第11条)
同一の経費に複数の補助金を充て、実質的な自己負担が想定を超えて減るような受け取り方は、この「他の用途への使用」に当たり得ます。
③ 違反したときに起きること
| 段階 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 交付決定の取消 | 第17条 | 他の用途への使用、または条件違反があったとき、交付決定の全部または一部を取り消せる |
| 返還命令 | 第18条 | 取り消した部分に交付済みの補助金があれば、期限を定めて返還を命じなければならない |
| 加算金 | 第19条1項 | 受領日から納付日までの日数に応じ年10.95% |
| 延滞金 | 第19条2項 | 納期日の翌日から納付日までの日数に応じ年10.95% |
| 他の補助金の停止・相殺 | 第20条 | 未納付があるとき、同種の事務・事業について交付すべき他の補助金を一時停止し、または相殺できる |
| 強制徴収 | 第21条 | 返還金・加算金・延滞金は国税滞納処分の例により徴収される |
| 刑事罰 | 第30条 | 第11条に違反して他の用途への使用をした者は、3年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金、またはその併科 |
重複受給が「バレたら返すだけ」で済まないのは、第20条(他の補助金まで止まる/相殺される)と第30条(刑事罰)があるためです。とくに第20条は、進行中の別の補助事業の資金繰りを直撃します。
④ 自治体の補助金は別の根拠
適正化法が直接かかるのは国の補助金等です。自治体の補助金は各自治体の補助金等交付規則・要綱が根拠になります。組み立て(交付決定+条件 → 違反 → 取消・返還)は同じですが、加算金・延滞金の率は自治体ごとに異なります。国と自治体の補助金を併用するときは、両方のルールを別々に確認してください。
3. 併用を検討するときに公式資料で確認できること
パターン1: 補助金 + 雇用関係助成金
雇用関係助成金の共通要領0304ニは、助成金以外の補助金等を受けている場合、趣旨・目的・助成内容等が明らかに異なるもの、または ①財源が異なる ②補助金等の側が助成金との併給を認めている ③重複して助成を受ける部分が明確で、合算しても自ら負担した経費・賃金の額を超えない のすべてに当たるものは、併給調整を行わないとしています。
- 持続化補助金: 販路開拓などの経費
- キャリアアップ助成金: 正社員化などの取組への定額支給
- → 趣旨・目的が異なる組み合わせですが、個別の判断は労働局に確認してください(→ 雇用関係助成金の併給ルール)
パターン2: 設備系補助金 + 業務改善助成金
- 業務改善助成金は、助成対象が同じ設備投資等の費用ではない他の助成金は受けられる一方、補助目的等が重複する場合は併給調整の対象となる場合があるとしています(Q&A 問47)
- 同じ設備投資等の費用に国・自治体から補助金等を受けている場合は対象外です(交付要綱 第4条第4項第一号エ)
- → 「別の機械なら必ず併用できる」とは言えません。申請前に労働局に確認してください
パターン3: 時期が異なる補助事業
時期を分けて別の事業に補助金を使う場合も、過去の利用が審査や申請資格に響く制度があります。
- 新事業進出・ものづくり補助金(第1回): 過去3年間にものづくり補助金または新事業進出補助金で交付決定を受けた事業者は減点
- 持続化補助金(第20回): 過去の補助事業の実施回数に応じた減点
- デジタル化・AI導入補助金: IT導入補助金2025の通常枠などで交付決定を受けた事業者は、交付決定日から12か月以内は通常枠に申請できない
パターン4: 補助金 + 税制優遇
同じ設備に補助金と税制優遇の両方を使う場合、補助金で取得した部分を圧縮記帳するかどうかなどで、税制側で使える金額が変わることがあります。税理士に確認してください(→ 補助金の課税と圧縮記帳)。
4. 併用NGの代表パターン
NG1: 同一経費の重複申請
例: 同じ広告費50万円を2つの補助金に計上 → NG
NG2: 同一事業の経費を分割しての重複
例: 1つの設備導入の費用を前半・後半に分けて、別々の補助金に計上 → 同じ事業の経費の分割とみなされるおそれ
NG3: 事業のテーマ・内容の重複
経費が違っても、テーマや事業内容が同一・類似だと対象外とする制度があります(省力化投資補助金のカタログ注文型とIT導入補助金の関係など)。
NG4: 補助対象期間の重複
複数補助金の補助対象期間が 重複している期間 に、同一の事業活動を行うと、計画書間の整合性を説明しにくくなります。
NG5: 成果物の重複
同じ成果物を複数の補助事業の成果として報告すると、同じ事業とみなされるおそれがあります。
5. 併用時の注意点
注意1: 事業計画書間の整合性
複数の補助金を併用する場合、各事業計画書を 整合性のある形で作成する必要があります。同じ商品名・同じKPI・同じ取引先が別の事業として記載されていると不審に。
注意2: 経費区分の明確化
会計帳簿で どの経費がどの補助金に紐づくかを明確にし、証憑を補助金ごとに分けて保管します。
注意3: 実績報告書の証憑分離
各補助金の実績報告書に提出する領収書・通帳コピーが 重複していないことを確認。
注意4: 採択後・受給後も発覚しうる
重複は、実績報告の証憑確認などで後から発覚することがあります。発覚すると、交付決定の取消・返還命令の対象になります。
6. 併用を検討する組み合わせの確認例
例1: 飲食店の販路開拓 + 正社員化
- 持続化補助金: 販路開拓の経費
- キャリアアップ助成金: パート → 正社員化(中小企業・有期雇用から40万円、重点支援対象者80万円)
- → 趣旨・目的が異なり、経費も重ならない組み合わせです。併給調整の扱いは共通要領0304ニのとおりで、個別の判断は労働局に確認します。
例2: 製造業の設備投資 + 賃上げ
- 新事業進出・ものづくり補助金: 新製品開発のための機械装置
- 業務改善助成金: 別の設備投資 + 事業場内最低賃金の引上げ
- → 同じ設備投資等の費用に両方を充てることはできません(業務改善助成金 交付要綱)。設備が別でも、補助目的等が重複すると併給調整の対象となる場合があるため(Q&A 問47)、申請前に労働局に確認します。
例3: ITツール導入 + 研修
- デジタル化・AI導入補助金: 登録ITツールの導入費用
- 人材開発支援助成金: 社員の訓練の経費・賃金
- → 経費は分かれますが、同じ訓練経費を複数の助成金で重ねて受けることはできません。ITツールの操作説明などを訓練として申請する場合は、訓練の要件(人材育成支援コースは実訓練時間10時間以上など)を満たすかも含めて確認します。
7. 併用検討時のチェックリスト
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 経費の分離 | 同一の領収書を分割していないか |
| 事業計画の独立性 | 異なる事業として記載されているか |
| 補助対象期間 | 重複期間中の活動が整合しているか |
| 知財の帰属 | 成果物の重複がないか |
| 実績報告の証憑 | 別個の証憑を提出できるか |
| 申請時の申告 | 公募要領が他の補助金の受給状況の申告を求めていないか |
8. 落とし穴
落とし穴1: 同一機械を分割購入での重複
「機械の費用の半分を持続化補助金、残り半分を新事業進出・ものづくり補助金」は、同じ機械の経費を分けただけなので重複とみなされます。
落とし穴2: 助成金 + 補助金の認識ズレ
「助成金は補助金ではないから併用できる」とは言えません。雇用関係助成金にも、同一の行為や同一の経費・賃金の支出について2つ以上を同時に支給しない、という併給調整のルールがあります(共通要領0304)。
落とし穴3: 事業計画の使い回し
複数申請で同じ計画書を使い回すと、同じ事業に重ねて補助を受けようとしているとみなされるおそれがあります。
落とし穴4: 採択後の「やっぱり別補助金も使いたい」
採択 → 事業実施中に「別の補助金も申請したい」と考える事業者がいますが、既存事業の経費を新規補助金に組み込むのは難。
落とし穴5: 自治体補助金との併用ルール見落とし
国の補助金と自治体の補助金の併用も、制限の書き方は制度ごとに違います(業務改善助成金は、同じ設備投資等の費用に自治体の補助金等を受けている場合を対象外としています)。国と自治体の双方の公募要領・要綱で確認してください。
9. 併用を考える前の整理事項
- 投資・取り組みを 経費区分ごとに分解
- 各経費ブロックに合う補助金を選定
- 事業計画書を 独立した別事業として作成可能か検討
- 補助対象期間が重ならないように計画
- 各補助金の事務局に 他補助金併用 の可否を事前確認
- 会計担当・税理士と経費分離方針を確認
10. よくある質問
Q. 持続化補助金とデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は併用できる?
A. 同じ経費を重ねることはできません。デジタル化・AI導入補助金の対象は登録ITツールの導入費用で、ホームページの制作そのものは対象ではありません。ホームページ制作は持続化補助金のウェブサイト関連費(第20回は補助金額30万円〈税込〉まで・ウェブサイト関連費だけでの申請は不可)で検討します。両方を使う場合は、経費と事業内容が重ならないかを双方の公募要領で確認してください。
Q. 業務改善助成金とキャリアアップ助成金の併用は?
A. 公式に明記されているのは、業務改善助成金で賃金引上げの対象とした労働者を、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の対象労働者に数えられないという点です(業務改善助成金Q&A 問47)。助成対象が同じ設備投資の費用でなければ受けられますが、補助目的等が重なると併給調整の対象になる場合があります。正社員化コースとの組み合わせは公式の明記がないため、労働局に確認してください。→ 雇用関係助成金の併給ルール
Q. 国の補助金と自治体補助金の併用は?
A. 制度ごとに異なる。双方の公募要領で確認必須。
Q. 補助金の重複受給を禁止している法律は?
A. 「重複受給を禁止する」と一文で書いた条文はありません。実際の禁止規定は各制度の公募要領・交付規程が補助対象経費の定義として置く条件で、補助金適正化法はその条件に従う義務(第11条)と、違反したときの交付決定の取消(第17条)・返還命令(第18条)・年10.95%の加算金と延滞金(第19条)・他の補助金の一時停止や相殺(第20条)・国税滞納処分の例による徴収(第21条)を定めています。第11条の「他の用途への使用」に当たる場合は、第30条により3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象にもなります。自治体の補助金は各自治体の交付規則・要綱が根拠です。
Q. 重複受給が発覚したらどうなる?
A. 国の補助金なら、交付決定の取消(第17条)、返還命令(第18条)、受領日からの日数に応じた年10.95%の加算金(第19条)の対象です。他の用途への使用に当たる場合は、第30条の刑事罰の対象にもなりえます。
Q. 重複はどうやって分かる?
A. 実績報告の証憑確認などで後から発覚することがあります。故意でなくても、重複した分は補助対象外です。申請前に経費と事業内容を整理してください。
11. 情報源
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律
- 中小企業省力化投資補助金 カタログ注文型 公募要領(PDF)
- デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領 通常枠(PDF)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 第1回 公募要領(PDF)
- 業務改善助成金 交付要綱(令和8年度申請分/PDF)
- 人材開発支援助成金 人材育成支援コース パンフレット(PDF)
- 業務改善助成金 Q&A(令和8年9月8日作成/PDF)
- 雇用関係助成金 共通要領(令和8年4月8日現在・別紙1〜3を含む/PDF)
- 小規模事業者持続化補助金〈一般型 通常枠〉第20回 公募要領(PDF)
最終確認日: 2026年9月15日(根拠法令は e-Gov 法令検索で条文を確認) / 編集: 補助金・助成金リアリティ編集部
この記事を書いた人
中小企業庁・厚生労働省・各都道府県の公式公表内容を一次情報源に、補助金・助成金の「申請すべきか/見送るべきか」を中立的に伝えるための編集チーム。 採択保証表現や申請代行業者の宣伝は行わず、採択率・準備負担・立替期間・実績報告の負荷といった現実的な観点から判断材料を提供することを編集方針としています。
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