結論
同じ事業主が、同じ行為や同じ経費・賃金の支出を理由に、雇用関係助成金を2つ以上同時に受けることはできません(雇用関係助成金 共通要領0304)。どの助成金とどの助成金を組み合わせられるかは、厚生労働省が公表している 併給調整表(共通要領の別紙1〜3)で決まります。
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)と人材開発支援助成金(人材育成支援コース): 併給調整表では 併給可能(○)
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)と特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース): 併給可能(○)。ただし特開金の対象になった有期雇用労働者は、正社員化の転換前の雇用形態が「無期雇用」扱いになる
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)と特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース): 一部併給できない(※)。トライアル雇用の後も継続して雇えば、特開金の一部(第2期支給対象期分)を受けられる
- 業務改善助成金は雇用関係助成金ではなく、併給調整表の対象外。キャリアアップ助成金との関係は業務改善助成金Q&A 問47に書かれている
組み合わせの可否は「労働者が違うか」「経費の名目が違うか」だけでは決まりません。申請前に、その組み合わせを併給調整表と各支給要領で確認し、迷ったら管轄の労働局に問い合わせてください。
1. 併給調整の原則(共通要領0304)
雇用関係助成金には、すべての助成金に共通するルールを定めた「共通要領」があります。その0304「併給調整」は次のとおりです。
イ 同一の事業主等による同一の行為を根拠として、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない。 ロ 同一の事業主等による同一の経費又は賃金の支出について、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない。 ハ 助成金間の併給調整については、イ及びロの規定によるほか、原則として別紙1、別紙2及び別紙3に掲げるところによる。
つまり、同じ行為(例: 同じ労働者の同じ正社員転換)や、同じ賃金・経費の支出(例: 同じ研修費の領収書)に、2つの助成金を重ねることはできません。そのうえで、組み合わせごとの細かい可否を別紙の併給調整表が定めています。
併給調整表の記号の意味
| 記号 | 意味(共通要領 別紙1) |
|---|---|
| ○ | 双方の支給要件を満たせば併給可能 |
| - | 同時に双方の支給要件を満たすことはないため、併給調整の問題は生じない |
| × | 双方の支給要件を満たしても、どちらか一方しか支給できない(一方が支給済みなら、もう一方は支給不可) |
| ※ | 双方の支給要件を満たしても、一部併給できない部分がある(詳細は別紙3) |
併給調整表には「各コースの基本的な併給の可否を示したものであり、各コース内の個別の申請ではこれに依らない場合がある」という注があります。表が「○」でも、個別の申請内容によっては調整が必要になりうる点に注意してください。
2. よく質問される組み合わせ(令和8年度の併給調整表)
| 組み合わせ | 表の記号 | 公式資料での扱い |
|---|---|---|
| キャリアアップ助成金(正社員化)× 人材開発支援助成金(人材育成支援) | ○ | 併給可能。人材開発支援助成金の特定の訓練を修了した非正規雇用労働者を正社員転換すると、キャリアアップ助成金で重点支援対象者として2期分の申請が可能 |
| キャリアアップ助成金(正社員化)× 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者) | ○ | 併給可能。ただし特開金の支給対象となった有期雇用労働者は、転換前の雇用形態を「無期雇用労働者」とする |
| キャリアアップ助成金(正社員化)× トライアル雇用助成金(一般) | - | 同時に双方の支給要件を満たすことはない |
| キャリアアップ助成金(賃金規定等改定)× 同(短時間労働者労働時間延長支援) | ※ | 同一の対象労働者の同一の支給対象期間に行った処遇改善については、どちらか一方しか支給されない。対象労働者が重複しなければ調整は不要 |
| トライアル雇用助成金(一般)× 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者) | ※ | 母子家庭の母等、父子家庭の父、中国残留邦人等永住帰国者は併用可能。また、トライアル雇用期間の終了後も継続して雇用する場合、特開金の一部(第2期支給対象期分)を受給できる |
| トライアル雇用助成金(一般)× 人材開発支援助成金(人材育成支援) | ※ | トライアル雇用助成金の支給対象期中は、人材開発支援助成金の賃金助成部分は併給不可 |
| 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者)× 人材開発支援助成金(人材育成支援) | ※ | 特開金の支給対象期中は、人材開発支援助成金の賃金助成部分は併給不可 |
出典: 雇用関係助成金 共通要領 別紙2・別紙3(令和8年4月8日現在)、キャリアアップ助成金支給要領0503・パンフレット(令和8年度版)
トライアル雇用のあと正社員にした場合
「トライアル雇用助成金とキャリアアップ助成金(正社員化コース)は両方申請できるか」について、公式資料にあるのは併給調整表の「-」(同時に双方の支給要件を満たすことはない)という記号だけです。一般トライアルコースを経た労働者の正社員化を正社員化コースの対象にするかどうかは、キャリアアップ助成金の支給要領(令和8年4月8日付け)・Q&A(令和8年7月29日)・パンフレット(令和8年度版)に明記がありません(支給要領にあるトライアル雇用の記載は、障害者正社員化コースでの障害者トライアル雇用に関するものだけです)。
当サイトでは推測で可否を書きません。雇入れの前に、管轄の労働局へ確認してください。
キャリアアップ助成金のコースどうしの制限
キャリアアップ助成金の中でも、賃金規定等改定コースと短時間労働者労働時間延長支援コースは、同一の対象労働者の同一の支給対象期間に行った処遇改善について、どちらか一方しか支給されません(支給要領0503ロ)。別の労働者であれば、この調整は必要ありません。
人材開発支援助成金の独自ルール
人材開発支援助成金の支給要領(人材育成支援コースほか)は、共通要領0304に加えて次の併給調整を定めています。
- 同一の事由で、賃金助成の性質を持つ雇入れ系の助成金を受けた場合、人材開発支援助成金の賃金助成は行わない
- 同一の事由で、緊急雇用創出事業等の助成金を受けた場合、人材開発支援助成金は支給しない
- 都道府県から「認定訓練助成事業費補助金」を受けている場合、経費助成は行わない
3. 業務改善助成金は「雇用関係助成金」ではない
業務改善助成金は、交付要綱第1条で「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(以下「業務改善助成金」という。)」と定められた補助金で、補助金適正化法と厚生労働省所管補助金等交付規則のもとで運用されます。雇用関係助成金の支給要領や併給調整表には登場しません。
そのため、併給の判断は業務改善助成金の交付要綱・Q&Aで行います。
| 場面 | 公式資料での扱い |
|---|---|
| 助成対象が同じ設備投資等の費用ではない他の助成金 | 受けられる。ただし補助目的等が重複する場合は併給調整の対象となる場合あり(Q&A 問47) |
| 業務改善助成金で賃金引上げの対象とした労働者を、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の対象労働者に数える | できない(Q&A 問47) |
| 同じ設備投資等の費用に、国・自治体から補助金等を受けている | 交付の対象外(交付要綱 第4条第4項第一号エ) |
| 同じ設備投資等の費用に、公益財団法人等から助成を受ける | 併せて受けられない(Q&A 問48) |
キャリアアップ助成金の正社員化コースと業務改善助成金の組み合わせを名指しした公式の記載はありません。2制度の比較は業務改善助成金とキャリアアップ助成金の違いを参照してください。
4. 経済産業省系の補助金と雇用関係助成金
共通要領0304のニは、助成金以外の補助金等を受けている場合について、次のように定めています。
事業主等が助成金以外の補助金等を受給している場合には、当該補助金等と支給申請する助成金の支給する趣旨や目的、助成内容等が明らかに異なっているものや、以下の(イ)から(ハ)までのいずれにも該当するものは併給調整を行わない。
(イ)〜(ハ) の中身は、①助成金と財源が異なる、②補助金等の側が助成金との調整を予定しておらず併給を認めている、③重複して助成を受ける部分が明確で、合算しても自ら負担した経費・賃金の額を超える見込みがない、の3つです。
持続化補助金などの補助金どうし、補助金と助成金の重複ルールは、補助金は併用できる?重複受給ルールで根拠法令ごとに整理しています。
5. 申請前の確認手順
- 同じ行為・同じ経費や賃金に2つの助成金を当てていないか確認する(共通要領0304イ・ロ)
- 雇用関係助成金どうしなら、厚生労働省の併給調整表(別紙2)で組み合わせの記号を見る
- 記号が「※」なら、別紙3で併給できない部分を確認する
- 各助成金の支給要領の「併給調整」の項を確認する(キャリアアップ助成金0503、人材開発支援助成金の各コースなど)
- 業務改善助成金が絡む場合は、交付要綱とQ&A(問47・問48)を確認する
- 判断に迷う場合は、申請前に管轄の労働局へ確認する
共通要領と併給調整表は、厚生労働省の「雇用関係助成金支給要領」のページで公開されています。
6. よくある質問
Q. 業務改善助成金とキャリアアップ助成金は両方申請できますか?
A. 助成対象が同じ設備投資等の費用でなければ業務改善助成金は受けられますが、補助目的等が重複すると併給調整の対象になる場合があります(業務改善助成金Q&A 問47)。また、業務改善助成金で賃金引上げの対象とした労働者は、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の対象労働者に数えられません。正社員化コースとの組み合わせは公式に明記されていないため、労働局に確認してください。
Q. トライアル雇用助成金とキャリアアップ助成金(正社員化コース)は両方申請できますか?
A. 併給調整表では「-」(同時に双方の支給要件を満たすことはない)とされています。トライアル雇用後の正社員化を正社員化コースの対象にするかは、キャリアアップ助成金の支給要領・Q&A・パンフレットに明記がありません。雇入れの前に労働局へ確認してください。
Q. 人材開発支援助成金で訓練した人を正社員にしたら、キャリアアップ助成金も受けられますか?
A. 併給調整表で、人材育成支援コースと正社員化コースは「○」(併給可能)です。さらに、人材開発支援助成金の特定の訓練を修了した非正規雇用労働者を正社員転換すると、キャリアアップ助成金で重点支援対象者として2期分の申請が可能と案内されています(キャリアアップ助成金パンフレット 令和8年度版)。
Q. 同じ領収書(同じ経費)で2つの助成金を申請できますか?
A. できません。同一の経費または賃金の支出について、同時に2つ以上の助成金は支給されません(共通要領0304ロ)。
Q. 経済産業省の補助金と雇用関係助成金は併用できますか?
A. 趣旨・目的・助成内容が明らかに異なるもの、または財源が異なり、補助金側が併給を認めていて、合算しても自己負担額を超えないものは、併給調整の対象外です(共通要領0304ニ)。同じ経費を重ねる場合は、補助金側の公募要領の重複ルールも確認してください。
7. 情報源
- 厚生労働省 雇用関係助成金支給要領(共通要領・併給調整表)
- 雇用関係助成金 共通要領(令和8年4月8日現在・別紙1〜3を含む/PDF)
- キャリアアップ助成金 支給要領(令和8年4月8日付け/PDF)
- キャリアアップ助成金 パンフレット(令和8年度版/PDF)
- キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース以外)Q&A(令和8年7月29日/PDF)
- 人材開発支援助成金 人材育成支援コース 支給要領(PDF)
- 特定求職者雇用開発助成金 支給要領(PDF)
- 業務改善助成金 交付要綱(令和8年度申請分/PDF)
- 業務改善助成金 Q&A(令和8年9月8日作成/PDF)
最終確認日: 2026年9月15日 / 編集: 補助金・助成金リアリティ編集部
この記事を書いた人
中小企業庁・厚生労働省・各都道府県の公式公表内容を一次情報源に、補助金・助成金の「申請すべきか/見送るべきか」を中立的に伝えるための編集チーム。 採択保証表現や申請代行業者の宣伝は行わず、採択率・準備負担・立替期間・実績報告の負荷といった現実的な観点から判断材料を提供することを編集方針としています。
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