結論
賃上げ系の代表的助成金2つの使い分け(2026年9月時点)。
- 業務改善助成金: 事業場内最低賃金の引上げ + 生産性向上の設備投資等、助成率3/4〜4/5
- キャリアアップ助成金: 非正規雇用労働者の正社員化など。正社員化コースは中小企業・有期雇用からの転換で1人最大80万円(重点支援対象者。それ以外は40万円)
両方を使う場合、業務改善助成金で賃上げの対象にした労働者は、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の対象労働者に数えられません(業務改善助成金Q&A 問47)。正社員化コースとの組み合わせは公式に明記されていないため、申請前に労働局へ確認してください。
1. 完全比較表
| 項目 | 業務改善助成金 | キャリアアップ助成金 |
|---|---|---|
| 所管 | 厚生労働省 | 厚生労働省 |
| 対象事業者 | 中小企業・小規模事業者(いわゆるみなし大企業は対象外) | 雇用保険の適用事業所の事業主 |
| 対象労働者 | 事業場内最低賃金を引き上げる対象の労働者(雇用保険の被保険者) | 有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者など |
| 助成内容 | 生産性向上の設備投資等の費用 | 正社員化などの取組に対する定額の助成 |
| 助成率・支給額 | 助成率3/4〜4/5 | 定額 |
| 上限・支給額 | 30万〜600万円 | 正社員化コースは中小企業・有期雇用からの転換で1人80万円(重点支援対象者)または40万円。障害者を正社員化する場合は障害者正社員化コース(中小企業で1人最大120万円) |
| 主な要件 | 事業場内最低賃金の引上げ + 生産性向上の設備投資等 | 正規雇用労働者と異なる雇用区分で6か月以上雇用した労働者を、就業規則等の転換制度に基づいて正社員化 |
| 注意する期間 | 申請の6か月前〜実績報告の前日または引上げ後6か月のいずれか遅い日まで、解雇・賃金引下げ等があると不交付 | 転換後6か月分の賃金を支払ってから支給申請(転換後6か月の賃金を転換前より3%以上増額) |
| 審査の仕組み | 要件を満たせば支給(採択率の公式公表はない) | 要件を満たせば支給(採択率という概念はなじまない) |
| 支給までの流れ | 交付申請 → 交付決定 → 設備の導入・支払と賃金引上げ(すべて交付決定年度の1月31日まで。理由書の事前提出で3月31日まで延長の場合あり)→ 実績報告 → 額の確定 → 支払(支払までの期間の公表なし) | 正社員化後6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内に支給申請 → 審査(審査期間の公表なし) |
業務改善助成金の賃金引上げは、令和8年度から申請より後に、地域別最低賃金の発効日の前日までに行う決まりです。先に引き上げてから申請することや、複数回に分けた引上げは認められません。
2. 対象労働者の違い
業務改善助成金: 事業場内最低賃金の引上げ
令和8年度は、事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金未満の事業場が対象です(改定前の地域別最低賃金との差が50円以内の事業場も引き続き対象)。ここでいう事業場内最低賃金は、雇用保険の被保険者で雇入れ後6か月を経過した労働者のうち、最も低い時間給です。
例: 東京都は改定前1,226円・改定後(答申)1,280円なので、事業場内最低賃金が1,279円までの事業場が対象。
令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均1,177円(56円引上げ)が答申された段階です。発効は都道府県ごとに2026年10月1日から12月2日までの間に順次行われるため、業務改善助成金の申請期限(発効日の前日と11月30日の早い方)も都道府県で違います。
パート・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、要件に当てはまれば雇用保険の被保険者になります(業務改善助成金Q&A 問22)。引上げ労働者数に数えるかどうかは、雇用形態の名称ではなく、申請書の提出日に雇用保険の被保険者かどうかで判断します。
キャリアアップ助成金: 非正規雇用労働者
有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者など。正社員化コースでは、転換日の6か月以上前から、正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を受けて雇用していることが要件です。無期雇用からの転換も対象ですが、支給額は有期雇用からの転換より低くなります(中小企業で1人40万円または20万円)。
派遣労働者を直接雇用する場合は、派遣先の同一の組織単位で6か月以上継続して同一の労働者派遣を受け入れていたことなどが要件です(キャリアアップ助成金 支給要領)。
3. 助成内容の違い
業務改善助成金
- 事業場内最低賃金の引上げ + 生産性向上の設備投資等
- 設備投資等の費用の 3/4〜4/5を助成(引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満は4/5、1,050円以上は3/4)
- 賃金そのものは助成の対象ではない(賃上げ後の差額は事業者負担)
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
- 正社員化に対する 定額助成
- 中小企業・有期雇用からの転換で、重点支援対象者は1人80万円、それ以外は40万円。無期雇用からは重点支援対象者40万円、それ以外20万円
- 重点支援対象者は、a. 雇入れから3年以上の有期雇用労働者、b. 雇入れから3年未満で、過去5年間の正規雇用期間が1年以下、かつ過去1年間に正規雇用されていない有期雇用労働者、c. 派遣労働者・母子家庭の母等・人材開発支援助成金の特定訓練修了者、のいずれか
- 1年度1事業所あたりの支給申請上限は20人
- 正社員転換制度・多様な正社員制度を新たに規定した場合などの加算あり
- 障害者を正社員化する場合は障害者正社員化コース(中小企業で、重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者を有期から正規に転換すると1人120万円。それ以外の障害者は90万円)
4. 申請のタイミングの違い
業務改善助成金
- 厚生労働省の交付要綱・Q&Aを確認
- 設備投資 + 賃上げ計画作成
- 都道府県労働局に 交付申請(令和8年度は2026年9月1日から、地域別最低賃金の発効日の前日と11月30日のいずれか早い日まで。労働局への到達日で判断)
- 申請後、発効日の前日までに賃金を引き上げる
- 交付決定 → 設備の導入・支払 → 実績報告 → 額の確定 → 支払
キャリアアップ助成金
- キャリアアップ計画書を、正社員化などコースの実施日の前日までに提出(労働局が受理する届出で、認定の手続きではない)
- 正規雇用労働者と異なる雇用区分で6か月以上雇用
- 就業規則等の転換制度に基づいて正社員化
- 正社員化後6か月分の賃金を支払う(転換前6か月より3%以上増額が必要)
- 6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内に支給申請
5. 併用ルール(公式に書かれていること)
業務改善助成金は、雇用保険の雇用関係助成金ではなく、交付要綱で運用される補助金(中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金)です。そのため、雇用関係助成金どうしの併給調整表には載っていません。キャリアアップ助成金との関係について公式に書かれているのは、業務改善助成金Q&A 問47です。
他の助成金等について助成対象が同一の設備投資等に要する費用ではないものについては、助成を受けることができますが、他の助成金等の補助目的等が重複する場合は、併給調整の対象となる場合がございます。
同じ問47は続けて、業務改善助成金で賃金引上げの対象とした労働者を、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の支給対象労働者として数えることはできないとしています。
| 組み合わせ | 公式の記載 |
|---|---|
| 業務改善助成金で賃上げした労働者を、賃金規定等改定コースの対象に含める | できない(Q&A 問47) |
| 業務改善助成金と、助成対象が同じ設備投資費用ではない助成金 | 受けられる。ただし補助目的等が重なると併給調整の場合あり(Q&A 問47) |
| 同じ設備投資費用に、国・自治体・公益財団法人等の助成も受ける | できない(交付要綱 第4条第4項第一号エ・Q&A 問48) |
| 業務改善助成金と正社員化コース | 明記なし → 申請前に労働局へ確認 |
「労働者が違えば必ず併用できる」「経費区分が違えば必ず併用できる」と一律に言い切れる根拠は、公式資料にはありません。キャリアアップ助成金とトライアル雇用助成金・人材開発支援助成金などの組み合わせは、雇用関係助成金の併給ルールで厚生労働省の併給調整表をもとに整理しています。
6. 支給を受けるための主な確認点
業務改善助成金
- 事業場内最低賃金が、令和8年度の改定後の地域別最低賃金未満であること
- 賃金の引上げを申請より後に、発効日の前日までに1回で行うこと
- 生産性向上の設備投資等を行うこと(設備投資なしの賃上げのみは対象外)
- 労働保険(雇用保険・労災保険)に加入し、保険料を滞納していないこと
- 解雇・賃金引下げなどの不交付事由がないこと
- 引上げ後の事業場内最低賃金と同額を就業規則等に定めること
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
- キャリアアップ計画書を、コース実施日の前日までに管轄労働局へ提出していること
- 転換日の6か月以上前から、正規雇用労働者と異なる雇用区分で雇用していること
- 就業規則等に規定した転換制度に基づいて転換し、転換後6か月の賃金を転換前6か月より3%以上増額すること
- 転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、事業主都合の離職(解雇等)を出していないこと
- 支給申請日に、転換後の雇用区分の状態が続いていて、対象労働者が離職していないこと(本人の都合による離職などを除く)
7. 落とし穴
業務改善助成金の落とし穴
- 申請の6か月前から一定期間に解雇・賃金引下げがあると不交付
- 申請前に賃金を引き上げてしまう(令和8年度からは、先に引き上げてから申請できない)
- 申請期限は都道府県ごとに違う(発効日の前日と11月30日の早い方。郵送も労働局への到達日で判断)
キャリアアップ助成金の落とし穴
- 計画書の提出がコース実施日の前日に間に合わない、または計画書に実施するコースの取組が書かれていない(受給できない)
- 転換後の「正社員」が要件を満たさない(期間の定めがない、勤務地・職務の限定がない、所定労働時間が通常の労働者と同じ、賞与または退職金の制度と昇給が規定・適用されている)
- 支給申請の期限(6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内)を過ぎる
8. 検討しやすいケース
業務改善助成金
- 事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金未満で、生産性向上の設備投資を予定している
- 申請後、発効日の前日までに事業場内最低賃金を引き上げられる
- 不交付事由の期間中に、解雇や賃金引下げをせずに済む見通しがある
キャリアアップ助成金
- 有期雇用労働者などを正社員に転換する予定がある
- 就業規則等に正社員への転換制度を規定できる
- 転換後6か月の賃金を、転換前6か月より3%以上増やせる
9. 対象外になる・注意が必要なケース
- 労働保険料を滞納している(業務改善助成金は対象外、キャリアアップ助成金は原則として支給されない)
- 業務改善助成金: 事業場内最低賃金がすでに対象の範囲を超えている、設備投資の予定がない
- キャリアアップ助成金: 就業規則等に転換制度を規定しないまま正社員化する、計画書を提出していない
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10. よくある質問
Q. 業務改善助成金とキャリアアップ助成金は同じ労働者で両方申請できる?
A. 業務改善助成金で賃金引上げの対象とした労働者は、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の対象労働者として数えられません(業務改善助成金Q&A 問47)。正社員化コースとの組み合わせは公式に明記されていないため、申請前に労働局へ確認してください。
Q. 介護報酬の処遇改善加算がある事業所でも業務改善助成金は使える?
A. 処遇改善加算と業務改善助成金の併用可否を明記した公式資料は見当たりません。公式Q&Aにあるのは、処遇改善加算を毎月職員数で割って手当として支給している場合、事業場内最低賃金の算定では歩合給に準じて扱う、という計算方法です(業務改善助成金Q&A 問9)。個別の取扱いは労働局に確認してください。
Q. 派遣社員の正社員化は?
A. キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、派遣労働者を正社員等として直接雇用する場合も対象です。派遣先の同一の組織単位で6か月以上継続して同一の労働者派遣を受け入れていたことなどが要件です(キャリアアップ助成金 支給要領)。
Q. 業務改善助成金の上限は何で決まる?
A. 引上げ額のコース(50円・70円・90円)、引き上げる労働者数、事業場規模が30人未満かどうかで決まります。10人以上の区分を使えるのは特例事業者(事業場内最低賃金が1,050円未満、または物価高騰等要件に当てはまる事業者)だけです。
Q. 社労士に依頼しないと申請できない?
A. 社労士への依頼は申請の要件ではありません。キャリアアップ助成金は、事業主が窓口への持参・郵送・電子申請で支給申請できます。依頼する場合は、費用と依頼する範囲を契約前に確認してください。
11. 情報源
- 厚生労働省 業務改善助成金(交付要綱・Q&A)
- 令和8年度 業務改善助成金のご案内(リーフレット/PDF)
- 厚生労働省 キャリアアップ助成金(支給要領・パンフレット)
- キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)リーフレット(PDF)
- 厚生労働省 全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました
- 雇用関係助成金の併給ルール
最終確認日: 2026年9月15日 / 編集: 補助金・助成金リアリティ編集部
この記事を書いた人
中小企業庁・厚生労働省・各都道府県の公式公表内容を一次情報源に、補助金・助成金の「申請すべきか/見送るべきか」を中立的に伝えるための編集チーム。 採択保証表現や申請代行業者の宣伝は行わず、採択率・準備負担・立替期間・実績報告の負荷といった現実的な観点から判断材料を提供することを編集方針としています。
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